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横浜地方裁判所 平成6年(ワ)3868号 判決

主文

一  被告は、原告加藤優治、同辻本昭一及び同鈴木正に対しそれぞれ金五五万円、原告齊藤義之に対し金四一万五〇〇〇円、原告齊藤妙子に対し金一三万五〇〇〇円、原告鈴木和雄、同大胡強及び同永嶋浩子に対しそれぞれ金二二万円、原告小林操に対し金一六万四〇〇〇円及び原告草間仁美に対し金五万六〇〇〇円並びにこれらに対するそれぞれ平成六年一一月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の各請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを四分し、その一を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

理由

【事実及び理由】

第一  請求

被告は、原告鈴木和雄、同加藤優治、同大胡強、同永嶋浩子、同辻本昭一及び同鈴木正に対しそれぞれ金一四八万九〇〇〇円、原告齊藤義之に対し金一一一万六七五〇円、原告齊藤妙子に対し金三七万二二五〇円、原告小林操に対し金一一〇万九三〇五円及び原告草間仁美に対し金三七万九六九五円並びにこれらに対するそれぞれ平成六年一一月一六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告らが被告から横浜市金沢区《番地略》ほかの土地に所在する共同住宅日栄ハイム富岡(以下「本件マンション」という。)の区分所有権(敷地権付き)を買い受けるに当たり、被告販売担当者から本件マンションが駐車場付きであるとの広告及び説明を受けたにもかかわらず、実際には駐車場利用者は第三者地主と個別に賃貸借契約を締結しなければならないものであったとして、主位的には債務不履行に基づき、予備的には不法行為に基づき駐車場利用権相当額、慰謝料、弁護士費用の損害の賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実及び証拠上容易に認定することができる事実

1 被告は、不動産の管理、賃貸、売買及びその仲介等を業とする株式会社である(争いがない。)。

2 原告らは、左記のとおり、いずれも被告から、本件マンションの区分所有権(敷地権付き)を買い受けた(以下、これらの契約を「本件各売買契約」という。)((一)ないし(八)の事実のうち、(七)を除いて争いはない。)。

(一) 原告大胡強(以下「原告大胡」という。)は、昭和六〇年四月二二日、本件マンション八〇四号室の区分所有権を買い受けた。

(二) 原告加藤優治(以下「原告加藤」という。)は、昭和六〇年一一月一七日、本件マンション六〇五号室の区分所有権を買い受けた。

(三) 原告鈴木正は、昭和六一年二月一六日、本件マンション三〇八号室の区分所有権を買い受けた。

(四) 原告鈴木和雄は、昭和六一年三月一日、本件マンション六〇二号室の区分所有権を買い受けた。

(五) 原告齊藤義之及び同齊藤妙子は、昭和六一年三月一二日、本件マンション四一〇号室の区分所有権を買い受けた(共有持分の割合は、原告齊藤義之が四分の三、原告齊藤妙子が四分の一である。)。

(六) 原告辻本昭一(以下「原告辻本」という。)は、昭和六一年三月一八日、本件マンション五〇五号室の区分所有権を買い受けた。

(七) 亡小林務及び原告小林操は、昭和六一年五月一六日、本件マンション五〇一号室の区分所有権を買い受けた(共有持分の割合は、小林務が一〇〇分の五一、原告小林操が一〇〇分の四九である。)

亡小林務は平成四年七月二六日死亡し、妻である原告小林操と、子である原告草間仁美(以下「原告草間」という。)が亡小林務の右持分をそれぞれ二分の一ずつ相続取得した。

(八) 原告永嶋浩子(売買契約時の姓は大久保。以下「原告永嶋」という。)は、昭和六一年八月二三日、本件マンション八〇三号室の区分所有権を買い受けた。

3 本件各売買契約締結に際し、被告の販売担当者らが原告らに示した重要事項説明書には、「物件の表示」中の「共用部分」欄に「3 駐車場、自転車置場、塵芥集積所等の付属施設」の表示がある一方で、同書面末尾の容認事項欄には、「(4) 標記登記簿面積は、開発区域全域の面積より借地である駐車場面積を除いたものとなります。」との表示があり、また、被告作成の本件マンションのパンフレットには価格表の総合設備欄に「駐車場/敷地外に二〇台分確保」の記載がある(争いがない。)。そして、本件マンションの売買契約書の第二三条(2)には「駐車場及び自転車置場については、第三者に専用使用権を譲渡若しくは転貸使用させることはできない。」との記載があった(争いがない。)。

4 被告は、昭和六一年六月二一日、横浜銀行上大岡支店会議室において、本件マンションに関する入居説明会(以下「本件入居説明会」という。)を行ったが、当時売買契約を締結していなかった原告永嶋を除き、その余の原告らもこれに参加した(争いがない。)。

5(一) 右同日の本件入居説明会の終了時に、原告加藤、同辻本、同齊藤義之及び同齊藤妙子並びに同鈴木正は、川崎次郎との間で、本件マンション敷地の隣地にある同人所有の北側駐車場(横浜市金沢区富岡東三丁目二三五〇番九、二六四五番七〇の各土地。)の駐車場所につき賃貸借契約を締結し、原告小林操、同鈴木和雄、同永嶋及び同大胡は、鬼沢美枝子との間で同人所有の南側駐車場(横浜市金沢区富岡東三丁目二三五〇番六の土地。北側、南側の駐車場を併せて以下「本件駐車場」という。)の駐車場所につき賃貸借契約を締結し、それぞれ本件駐車場を駐車場所として使用していた(争いがない。)。

(二) 右各賃貸借契約は、一般の賃貸借契約と同様に、駐車場利用者が賃貸人である川崎次郎、鬼沢美枝子に対して敷金を納め、直接賃料を賃貸人に振込送金すべきものとなっている(争いがない。)。

6 ところが、平成六年四月ごろ、川崎次郎は、賃借人である原告加藤、同辻本、同齊藤義之及び同齊藤妙子並びに同鈴木正に対して、平成六年六月末日の期間満了をもって右各賃貸借契約を終了させ更新はしない旨の通知をした。そのため、同年七月一日以降、右の各原告らは右駐車場の利用ができなくなった(争いがない。)。

二  争点

1 被告の責任原因について

(一) 債務不履行責任が成立するか。

(1) 被告は、本件各売買契約上、原告らが本件駐車場を必要とする間は継続して使用しうる権利を取得させる債務(以下「本件債務」という。)を負っていたか。

(原告らの主張)

原告らは、いずれも本件各売買契約の締結に当たって、被告から本件マンションが駐車場付きである旨の広告及び説明を受けており、原告らは、駐車場付きのものとしてそれぞれ本件マンションを買い受けた。

本件マンションが駐車場付きであったと認められるのは、以下の事情からである。

<1> 購入希望者に配布された本件マンション販売広告パンフレットには、完成予想図、平面図、配置図のいずれにも本件駐車場がマンションと一体のものとみられるような形で記載されており、また、総合設備の項には「駐車場/敷地外に二〇台分確保」との記載がある。

<2> 原告らはいずれも、本件各売買契約締結に当たって、被告から、駐車場付きであるとの説明を個別に受けている。原告らを始めとして、本件マンション購入者の多くは、被告に対し、駐車場がないのであれば購入しないと伝えており、これに対し、被告から「駐車場がある」旨の確答を得ている。

<3> しかも、本件各売買契約に当たって作成された契約書には、「物件の表示」の共用部分の欄には「駐車場」と明記されている上、第二三条には「駐車場(略)については、第三者の専用使用権を譲渡若しくは転貸使用させることはできないこと。」との約定が記載され、また、重要事項説明書にも「物件の表示」の共用部分の欄に「駐車場」との記載があり、容認事項の欄には「(4)標記登記簿面積は、開発区域全域の面積より借地である駐車場面積を除いたものとなります。」と記載されている。

以上のような広告、説明及び契約条項に照らし、本件マンションは駐車場付きで販売する、すなわち、本件マンションの入居者がその所有する自動車の駐車場として必要とする間は本件駐車場を継続して使用できるものとして本件マンションを販売することが、売主である被告と買主である原告らとの意思であったというべきである。

したがって、被告は、原告らそれぞれに対し、本件駐車場付きの区分所有権を引き渡す義務を負っている。すなわち、被告は、原告らに対しそれぞれの所有自動車の駐車場として本件駐車場を必要とする間は継続してこれを使用することができるものとする債務を負担している。

そして、被告の右債務は、被告が当初の時期に本件駐車場敷地の地主に対して、原告らの駐車場使用権を継続的なものとして確保する方策を採らなかったという不作為により債務不履行となった。

(被告の主張)

本件マンションの販売においては、被告の販売担当者は、駐車場を希望する申込者に対して、遅くとも契約締結前の重要事項の説明の際には、駐車場が第三者地主からの借地であることを説明しており、また、販売用パンフレットの総合設備の欄にも、「駐車場/敷地外二〇台確保」と記載している。

一般に、多額の出費を伴う不動産を購入しようとする者は、パンフレットを丹念に読み、販売担当者の説明を十分に聞いてから申し込むのが普通であるから、原告らも、本件各売買契約締結前に、駐車場が敷地外であることは十分に承知していたはずである。

原告らは、被告が購入者に対して「駐車場を使用する必要がある間は使用することのできる権利を与えた」と主張するが、契約の際に「敷地外駐車場」と表示される場合は、その駐車場の利用を希望する者は地主と直接駐車場使用契約(土地の賃貸借契約)を結ぶのが一般の取引通念であり、分譲業者が駐車場を確保しているというのは、マンション購入者が地主と個別契約をしやすいように、予め土地を捜し、その土地が他に使用されないように確保しておくということにすぎない。

仮に原告ら主張の本件債務が存在したとしても、本件駐車場は第三者の所有物であったのであるから、この履行は原始的に不能であり、被告の作為・不作為によって後発的に債務不履行となったものではない。

(2) 契約締結上の過失として、責任が生じるか。

(原告らの主張)

仮に、本件債務が原始的に不能であるとしても、被告は、原告らに対し、本件マンションを駐車場付きであると信じさせる内容の広告及び説明をし、本件駐車場の敷地が第三者の所有地であり、いつ契約解除ないし契約更新の拒絶を受けて駐車場が使用できなくなるかも分からない不安定なものであることを全く説明しないままに、むしろ永続的に使用することが可能であるかのような虚偽の広告、説明をし、その結果本件各売買契約を締結させた。

(被告の主張)

被告の販売担当者たちは、本件マンションの販売に当たり、販売用パンフレットに記載のあるとおり、敷地外に駐車場を確保していると説明した。具体的には「地主から駐車場用地として借りている。お客様には地主と直接契約していただく。将来地主の相続等で使えなくなることもあり得る。」といった形で説明している。

本件各売買契約締結に際しては、宅地建物取引主任資格を持つ被告の販売担当者が、重要事項説明書を説明したが、特に「容認事項」については一つ一つ丁寧に読み上げて説明している。その第四項では「標記登記簿面積は、開発区域全域の面積より借地である駐車場面積を除いたものとなります。」と記されており、この説明に当たって被告の販売担当者は、本件駐車場が本件マンションの敷地には含まれないこと、したがって本件駐車場の利用は直接地主と契約していただくものであることを説明していた。

購入希望者の中には駐車場がないと困るというものもあったが、それに対しては、「本件駐車場の利用希望者が多ければ、そこは抽選になります。本件駐車場が使えないお客様には、他の場所に当社が駐車場を確保します。」と説明した。その際も、利用者が地主と直接契約してもらうべきことを話している。

昭和六一年六月二一日に開かれた本件入居説明会において、本件駐車場の利用希望者を募ったところ、駐車可能台数とが一致していたので、抽選は行われなかった。この説明会の場で被告の販売担当者は、原告永嶋を除く原告らに対し本件駐車場利用者に区画表を交付し、「本件駐車場の利用に当たっては、利用者ご自身が、直接仲介の富岡商事に出向いて、地主と個々に契約していただきたいこと」等を説明した。

右入居説明会に参加した利用希望者は、入居説明会後、その足で仲介人である株式会社富岡商事の事務所を訪れ、駐車場の利用契約を締結している。

なお、原告永嶋は、売買契約の日が昭和六一年八月二三日であるから、右入居説明会には出席していないが、事前に説明を受けて地主(鬼沢美枝子)と直接駐車場利用契約を締結している。

(二) 不法行為責任が成立するか。

(原告らの主張)

仮に被告に債務不履行責任が生じないとしても、不法行為上の責任が生じる。その内容は右(一)(2)の(原告らの主張)と同じであるから、ここに引用する。

(被告の主張)

右(一)(2)の(被告の主張)と同じであるから、ここに引用する。

2 損害の発生とその額

(原告らの主張)

(一)<1> 経済的損害

原告らが本来有する駐車場付きマンションにおける駐車場使用権は、先着順あるいは順番待ちをして一旦使用を始めれば、原告らが本件駐車場を使用する必要がなくなるまで存続する強い権利である。このような性質に鑑みれば、かかる権利は借地権に準ずるものとみることができ、その価額は、少なくとも土地価格の三割とみることができる。

本件駐車場の土地の価格は坪単価一三一万円であり、駐車場一台分の面積は約三坪であるから、次の計算式のとおり、原告らの損害額は、原告一人当たり一一七万九〇〇〇円となる。(なお原告齊藤義之、同齊藤妙子、原告小林操及び同草間はそれぞれ区分所有権の持分割合により、右の損害金を案分した額となる。)。

(計算式) 一三一万円×三×〇・三=一一七万九〇〇〇円

<2> 慰謝料 原告一人当たり一〇万円

(二) 仮に右(一)の経済的損害が認められない場合には、その精神的損害は原告一人当たり一二七万九〇〇〇円と評価すべきである。

(三) 弁護士費用

原告一人当たり二一万円

(被告の主張)

原告らの支払った本件マンションの売買代金には、本件駐車場の利用権に関する価格は含まれていないのであるから、原告らに右利用権を失ったことによる損害が生ずるとはいえない。したがって、右の損害との間に相当因果関係はない。また、原告小林操、同草間、同鈴木和雄、同永嶋及び同大胡は、いまだに鬼沢との間の賃貸借契約を継続しており、これを失っていない。

3 債務不履行及び不法行為の主張に対する過失相殺の抗弁

(被告の主張)

仮に被告に責任が生ずるとしても、原告らは、わずかな注意を払えば本件駐車場に対する原告らの賃借権が第三者地主との間の民法上弱い保護しか与えられていない一般の賃借権にすぎないことを知り得たのであるから、これを見過ごしたまま本件各売買契約を締結したことには重過失があり、大幅な過失相殺をすべきである。

4 不法行為に対する消滅時効の抗弁

(被告の主張)

原告らが、被告の不法行為による損害の発生及び加害者を知ったのは、原告らと川崎次郎及び鬼沢美枝子が本件駐車場の利用契約を締結した昭和六一年六月二一日であり、右日時から起算して三年が経過しているから、被告は、右消滅時効を援用する。

(原告らの主張)

原告らは入居説明会の際に地主との賃貸借契約書を作成した段階ではまだ損害の発生を確知していなかった。平成六年四月に、川崎次郎から、同年六月末日をもって賃貸借契約を終了する旨の通知を受けて初めて損害の発生を知ったのであるから、右消滅時効の起算点は平成六年四月である。

第三  争点に対する裁判所の判断

一  事実経緯

前記認定の事実経緯に、《証拠略》を総合すれば、以下の事実を認定することができる。

1 駐車場に関する被告の説明について

(一) 契約締結前(セールス時)の説明

(1)<1> 原告大胡は、被告の広告を見て、昭和六〇年三月ころ、本件マンションのモデルルームを見学に行った。被告販売担当者に対して駐車場のことを尋ねたところ、「駐車場はありますから」との返事を受けたが、駐車場利用者の決定が抽選になることその他の説明は受けていなかった。

<2> 原告加藤は、昭和六〇年一〇月ころ知人の紹介で本件マンションのパンフレットをもらい、購入を決意した。被告販売担当者の安部博(以下「安部」という。)に対し、駐車場利用の可能性を尋ねたところ、「駐車場は二〇台分あります。ただし抽選になるかもしれないけれど、必ず用意します。」との返事であったので、その旨理解したが、安部からはその他の説明はなかった。

<3> 原告鈴木正は、昭和六一年二月販売事務所を訪れ、被告販売担当者の増茂隆行(以下「増茂」という。)から説明を受けた。原告鈴木正と増茂の間には、「駐車場はあの玄関前のがそうですか。」「そうです。二〇台分くらいあります。申込みが多ければ抽選になりますが、早いうちに契約すれば大丈夫です。」などという会話があり、原告鈴木正の「うちは駐車場は絶対必要なんです。」との話に対して増茂の「駐車場は、別の人の持ち主なのですが、うちで使えるようになっていますから。」との説明があった。

<4> 原告鈴木和雄は、昭和六一年二月ころ新聞広告を見て本件マンションを見に行くなどした後、同年三月、被告販売事務所においてその六〇二号室につき売買契約を締結したが、その際、前記増茂に対し、本件駐車場を指さして「駐車場はあそこですね。台数が少ないがどうするのか。」と尋ねたところ、増茂から申込みが多いと抽選になると言われたので、「抽選じゃ外れる可能性があるから買わない。」と告げたところ、増茂は、「鈴木さんは、抽選があっても絶対に入れる。」と言って原告鈴木和雄を安心させた。

そこで、原告鈴木和雄は増茂に対し駐車場のことを契約書に書くように要求したところ、同人は、販売促進を図るため契約書の最後に特約事項として「正面入口前の駐車場を一台確保する。」との文言を営業担当の戸沢宗広(以下「戸沢」という。)に書き入れさせた。

<5> 原告齊藤義之と同齊藤妙子は、昭和六一年三月初旬本件マンションを下見に訪れた際、戸沢に駐車場を尋ねたところ、本件マンションの六階正面玄関前に案内され「ここが駐車場になっています。」と指し示された。

数日後、戸沢と販売担当者の佐久間敏(以下「佐久間」という。)は、原告齊藤宅を訪れて契約内容の説明を行ったが、この際にも「駐車場はあります。抽選になりますが、今ならまだ大丈夫です。」旨の説明がされていた。

<6> 原告辻本は、日栄ハイムの販売広告を見て、昭和六一年三月の第一日曜日、同人の妻と一緒に被告の販売事務所(本件マンション三階)を訪れた。原告辻本は仕事上自動車が必要であったために、それまでに約五件ほどのマンションを見て検討していたが、いずれも駐車場付きであることを条件としていた。

原告辻本は、被告の販売担当者である松永周一(以下「松永」という。)に対し、「あちら、こちらと見たが、今まで見たところは駐車場が付いていないので買わなかった。ここのマンションの駐車場は。」と尋ねたところ、駐車場を指して「駐車場は上にあります。」との答えがあったので、更に「駐車場の数が少ないから、抽選ですか。」と尋ねると、松永は「今の時点では駐車場はあります。遅くなるとなくなります。」と答えていた。

また、一年ごとに利用者の交替を行う場合があると聞いていた原告辻本は、「一年経ったら抽選をし直して使えなくなる場合もあるのか。」と尋ねたが、松永は「それはありません。ずっと使えます。」と返事をした。

その他、「あの駐車場は日栄不動産が造ったのですか。」という質問に対しても、松永は「そうです。当マンションの人が使えるように造りました。」と答えたものの、本件駐車場の所有関係と利用契約についての法律関係は何ら説明しなかった。

<7> 原告小林操は、昭和六一年五月一一日、本件マンションの新聞広告をみて被告販売事務所に電話をし、その直後本件マンションのモデルルームを小林務とともに見に行った。その際、原告小林操が佐久間に対し駐車場が必要である旨を告げると、佐久間は、本件駐車場に案内し、そこで原告小林操らに対して、駐車場は抽選になるかもしれないが大丈夫であること、抽選をし直すことはなく継続的に使えることなどの説明をした。

<8> 原告永嶋は、昭和六一年八月一五日ころ、本件マンションの現場で佐久間からセールスを受けた。当時、原告永嶋には駐車場の必要はなかったが、駐車場に関して佐久間から受けた説明は、「駐車場はありましたが、もう満員です。必要ならば近くを紹介します。」というものであった。

同年八月二三日、原告永嶋は被告とモデルルームにおいて本件売買契約を行ったが、契約時の重要事項説明の補足として「駐車場は販売する面積には含まれていません。」旨を被告販売担当員から言われた。

(2) 被告は、本件マンションの販売活動に際して販売用パンフレットを配布していたが、右パンフレットには、冒頭の完成予想図に続いて本件マンションと本件駐車場の位置関係を示す配置図、平面図が掲げられていたが、これらの図面には、本件駐車場と本件マンションの敷地は、幅員六・五メートルの本件マンション敷地への主要進入路を隔てるだけの近接した位置にあることが表示されていた。

(二) 契約締結時

本件各売買契約は前記第二、一2記載のとおり締結されたが、その際、原告鈴木正を除くその余の原告らに対しては、いずれも被告販売担当者から本件駐車場の所有関係と各人の利用契約に触れた説明はなく、原告鈴木正に対しても、前記認定のとおりの説明以上の説明はなかった。また、原告ら全員に対して、本件駐車場の利用契約が地主との直接契約となること、したがって、将来地主に相続などが生じたときは利用できなくなることなどの契約の内容と法律関係についての説明はなかった。更に、原告らとの本件各売買契約の契約書を交わした際には、被告の担当者が重要事項説明書等を読み上げて、その内容を原告らに告知したが、駐車場の権利関係について特段の説明を加えることはなかった。この点、証人松永の証言には、本件駐車場の利用関係と将来地主に相続などが生じたときは駐車場の利用ができなくなるとの説明をするよう渋谷営業所長から指示されていたとする部分があるが、同じく販売担当者であった証人増茂は、渋谷からは右のような説明をするようにとの指示を受けていないと証言しているのであり、これに照らせば、右の証人松永の証言は採用できない。

2 入居説明会

被告は、昭和六一年六月二一日午後一時ごろ本件マンションの購入者を横浜銀行上大岡支店会議室に集めて入居説明会を行った。

入居説明会開催の案内書には、「駐車場を申し込まれる方は、当日三万円をご用意ください。」との記載がされていた(これに先立ち、原告大胡に対しては、被告の社員から、駐車場の区割り決定のためであるとして自動車の車種を問い合わせる電話があった)。

説明会当日には、主として管理組合規約の説明、右の役員の選出、住まい方についての注意など行われたが、駐車場に関する説明はなく、右説明の終了後、駐車場利用希望者のみ、説明会場内のテーブルの一つに集められ、そこで駐車場の利用契約に関する手続が行われた(なお、この点につき、被告は、入居説明会後、原告らがその足で仲介人である株式会社富岡商事の事務所を訪れ、駐車場の利用契約を締結している旨の主張をしているが、本件全証拠によってもこれを認めるに足りない。)。

右の手続は、駐車場の区割り図面を見せられ、利用場所の指定を受けた後、予告されていた約三万円の金銭を支払い、その場で交付された駐車場賃貸借契約書二部にそれぞれ署名捺印するというものであった。これらの手続を行っていた担当者については、右手続に加わった原告らに全く紹介がなかったため、それが被告会社の従業員であるのか、株式会社富岡商事の従業員であるのか、それ以外の者であるのか判然としない状況であった。

原告永嶋を除く原告らは、右の手続の際に初めて、第三者である地主と原告らが本件駐車場の賃貸借契約を締結することを知らされたが、いずれも入居を目前に控えていたため、又は被告会社と駐車場所有者との間に何らかの合意があるのではないかと思ったために、特に被告の説明不足に異を唱えることなく、本件駐車場の利用契約を締結した。

なお、原告永嶋は、平成二年ごろに駐車場が必要となり、本件マンションの管理会社である日栄コミュニティーに対して本件駐車場利用の申込みをしたが、直接地主に契約締結を申し込むように指示されて、初めて本件駐車場の敷地所有者が第三者であり、右第三者地主との賃貸借契約が必要であることを知らされた。その後の平成三年一〇月、原告永嶋は鬼沢美枝子との間で右の賃貸借契約を締結した。

3 以上の事実が認められる。証人松永及び同増茂と乙四は、原告らに対しては本件マンションの購入を勧誘していた段階から、本件駐車場の所有関係、第三者地主との賃貸借契約が必要であることを説明していたと供述するが、にわかにこれらの供述を採用することはできない。確かに前記認定のとおり、販売用パンフレットには「駐車場/敷地外に二〇台分確保」という記載があり、また、重要事項説明書の容認事項欄には「(4) 標準登記簿面積は、開発区域全域の面積より借地である駐車場面積を除いたものとなります。」との記載があるが、右各記載は同じ重要事項説明書の「物件の表示」の「共用部分」欄の「駐車場」の記載との関係が明らかではないし、前記認定の売買契約書第二三条(2)の約定と関連付ければ、むしろ駐車場利用者には専用使用権があるかのような誤解を生むものと考えられ、右のパンフレット等の記載から、直ちに被告が本件駐車場の敷地に何らの権利をも有していないこと、駐車場利用契約は第三者地主との間で賃貸借契約を締結しなければならないこと、右契約においては被告が何らの責任をも負わないことを理解し得るとは到底いえない。そして、これに関して被告の担当者が誤解を解くべく正確な説明をしていたとは、概ね不自然さがないと認められる原告辻本の供述と原告らの各陳述書の記載に照らして認めることができない。すなわち、そもそも、第三者地主の存在とその法律関係が原告らに十分に理解されていたのであれば、平成六年四月に川崎次郎から本件駐車場の利用契約の終了を通告する通知を受けた原告らが、被告の虚偽説明を理由に被告の責任追及の行動を起こすことはなかったはずであると考えるのが自然である。また、証人増茂の証言からは、昭和六〇年及び昭和六一年当時本件マンションの販売状況が思わしくなく、したがって販売促進のために、被告の営業担当者らは購入希望者の駐車場の希望を優先する営業方針をとっていたことが窺われるが、そうだとすると、営業担当者らが、右営業方針に反してまで殊更に営業上不利な駐車場利用に関する法律関係を告げていたとは考えにくい。したがって、証人松永と乙四が供述する「地主に相続等が生じたときは、使用することができなくなる可能性がある。」という告知をするように上司から指示されていた事実も、直ちにこれを認めることはできない(証人増茂はこのような指示があったことを否定している。)。

二  争点1(一)(1)(本件各売買契約上の債務不履行)について

そこで、本件各売買契約上、原告らが本件駐車場の継続的利用権の取得を請求することができる(被告はこれを取得させる債務を負う)と認められるかについて判断するに、前記第二、一の事実及び右認定の事実に本件全証拠を総合するも、本件各売買契約上の給付として、被告が原告らに対して右の継続的駐車場利用権を取得させる債務を負うと認めることはできない。すなわち、右のようなやや複雑な給付を目的とするのであれば、当然本件各売買契約の内容としてその旨が示されていなければならないものであるが、これを認めるに足りる証拠はない。また、右のような給付が可能であるためには、被告において本件駐車場の敷地の利用権を支配することができる権利(所有権又は借地権等)を継続的に有している必要があるが、前記認定のとおり、本件駐車場の敷地所有権は川崎次郎と鬼沢美枝子に帰属しており、本件全証拠によるも、被告が本件駐車場の所有権を取得しようとしたり、あるいは川崎次郎又は鬼沢美枝子から本件駐車場の利用権を積極的に取得しようと交渉したなどという事実を何ら認めることができないのであり、これらの事実からすれば、被告が原告らに本件駐車場の右の継続的利用権を取得させるまでの意思を有していたとは到底認めることができない。すなわち前記認定の販売用パンフレットの「敷地外に二〇台分確保」の記載、又は原告鈴木和雄の本件売買契約書に記載された「正面入口前の駐車場を一台確保すること」という特約事項の記載を、原告らに継続的利用権を保障した趣旨と読むことは必ずしもできないし、前記認定の被告の販売担当者らが述べた「抽選があっても絶対に入れる。」「抽選になるかもしれないけれども、必ず用意します。」という言葉も必ずしも継続的な利用権の取得を保障した意思と解することはできない上、「ずっと使えます。」という言動や継続的に使えるという説明は、専ら毎年の抽選や利用者の毎年の交代がないことの説明として述べられていることが前後の事実の経緯から明らかであって、到底、原告らの主張するような継続的利用権の取得を約束したものということはできない。結局、被告の本件駐車場の利用に関する意思は、原告らに駐車場利用を斡旋しようとするだけの意思しかなかったというべきであり、本件各売買契約上の給付債務として被告が原告らに右の継続的利用権を取得させるという債務を負うという意思があったとは認められない。したがって、本件各売買契約においては、右のような債務が契約の目的となっていたとはいえないから、被告にはその履行義務がなく、この点の債務不履行が成立する余地はない。原告らのこの点に関する主張は理由がない。

三  争点1(一)(2)(契約締結上の過失)について

しかしながら、一般にマンション(集合住宅建物)の区分所有権の売買契約においては、買主に駐車場利用権を取得させる債務が契約の給付の内容に含まれない場合であっても、今日乗用車が日常生活における重要な生活手段となっていることに鑑みれば、売主には駐車場の存否とその利用契約締結の可否について買主に正確に説明すべき附随義務があると解するのが相当である。けだし、駐車場の有無とその利用関係の内容(契約上の相手方、場所、期間、賃料等)について正確な情報の開示を受けることは、買主にとって、売買契約締結の動機形成上重要な要素となることが多いということができるからである。したがって、特に買主から駐車場の有無を確定することが契約を締結するか否かの判断のために必要である旨が表示されている場合においては、附随義務とはいえ、信義則上、売主の右のような説明義務違反を軽いものとみることはできない。また、売買契約が締結される前の勧誘行為において、右のような説明義務に違反する行為があった場合においても、いわゆる契約締結上の過失の問題として、売買契約の成否にかかわらず、売主に債務不履行責任が生じる余地があると解される。

これを本件についてみるに、前記認定のとおり、原告永嶋を除くいずれの原告らも、被告の販売担当者から本件マンションの販売勧誘を受けた際に、駐車場の存否を尋ねているか、又は駐車場が確保されていることがマンション購入の必要条件となるという趣旨を告げていたのであるから、未だ本件各売買契約が締結されてはいない状態ではあったが、販売担当者には、本件駐車場の所有関係、利用契約の趣旨内容を、右原告らに説明すべき信義則上の義務があったということができる。右の説明義務は、本件各売買契約が成立した場合には、前述のとおり、当然に右契約の附随義務となるものと解されるが、契約締結前における右説明義務違反は、契約の成否にかかわらず、いわゆる契約締結上の過失の一態様として、売主に債務不履行責任を発生させるものと解するのが相当であり、右の債務不履行責任は、実際に行われた説明を信じたことによる買主の損害(いわゆる信頼利益)の賠償を義務付けるものというべきである。

そこで、被告の右義務違反行為の存否について検討するに、前記認定の事実によれば、被告の販売担当者らは、原告永嶋を除くその余の原告らが販売される本件マンションが駐車場付きであるか否かについてある程度の関心を示していたにもかかわらず、売買の勧誘行為において、複数の原告に対して本件駐車場まで案内した上、駐車場の確保ができていることを告げ、又はその利用権が一年限りのものではないことを説明したに止まり、原告ら全員に対して地主である川崎次郎と鬼沢美枝子との間で個別に賃貸借契約を締結する必要があり、本件マンションの販売業者である被告は、右駐車場の賃貸借契約に何ら関与することがないことを説明しなかったと認められる。したがって、《証拠略》によれば、原告らはいずれも本件駐車場の利用契約は被告との間で締結すべきものと理解しており、原告永嶋を除くその余の原告らが実際には第三者地主との間の賃貸借契約を締結しなければならないことを初めて知ったのは、昭和六一年六月二一日の入居説明会の際であったことが認められ、また、原告永嶋においても現実に駐車場の必要が生じて本件マンションの管理会社にその利用を申し込んだ平成二年に初めて右の事実を知るに至ったと認められるのである。したがって、これらの経緯を検討すると、被告には本件各売買契約の締結前において、前述の説明義務違反があったといわざるを得ず、また、契約締結後においても、原告らがそれぞれ本件駐車場の利用契約を締結するまで、右の義務違反が解消されることはなかったものと認められる。

四  争点2(原告らの損害)及び争点3(過失相殺)について

1 そこで、原告らに生じた損害について判断するに、前述のとおり、被告の責任は、本件各売買契約上は附随義務にすぎない前述の説明義務の不履行によるものであり、その賠償の範囲はいわゆる信頼利益であると解される。

ところで、原告らが主張する財産的損害と精神的損害はいずれも被告に本件各売買契約上の給付に関する債務不履行があったことによるものであるが、前記認定のとおり、原告らには本件駐車場に対する継続的利用権を取得し得る契約上の権利はないのであるから、原告らの主張する損害は直ちにこれを被告の賠償責任の範囲内にあると認定することはできない。

2 しかしながら、被告の行った不完全な説明を信じたことにより、原告らに精神的損害が発生したことは、これを容易に認定することができる。すなわち、《証拠略》によれば、本件マンションの所在は市街地からやや離れた郊外にあり、最寄りの駅までの交通手段がやや不十分であり、付近住民にとって乗用車の保有は生活上必須であると推認されること、川崎次郎から平成六年六月三〇日を期限として本件駐車場(北側)の賃貸借の終了を通告された原告加藤、同鈴木正、同齊藤義之、同齊藤妙子、同辻本は、その後いずれも本件マンションの自宅から歩いて五分ないし一〇分ほどの距離にある場所に新たに駐車場を賃借しなければならなくなったことが認められ、当初の予想が裏切られたことにより、精神的苦痛が生じていることは、容易にこれを推認することができる。また、鬼沢美枝子から本件駐車場(南側)を賃借しているその余の原告らの駐車場に対する法律関係も、当初予想されていたものよりも不安定なものになったと理解されることとなったということができるから、この点で右原告らに精神的損害が生じていると認めるのが相当である。

3 そして、本件で認定した諸事情を斟酌し、原告らの蒙った精神的損害に対しては、川崎次郎から賃貸借終了の通告を受けた原告加藤、同辻本及び同鈴木正については一人当たり各金五〇万円、原告齊藤義之については金三七万五〇〇〇円、原告齊藤妙子については金一二万五〇〇〇円、鬼沢美枝子との賃貸借契約を締結している原告鈴木和雄、同大胡及び同永嶋についてはそれぞれ金二〇万円、原告小林操については金一四万九〇〇〇円及び原告草間については金五万一〇〇〇円の慰謝料の支払を受けるべきものとするのが相当と判断する(なお、原告齊藤義之及び同齊藤妙子並びに原告小林操及び同草間については、本件マンションの一戸の共有持分を有する者であり、右原告らはそれぞれ他の共有持分権者と経済的一体性をもって本件マンションを購入している点を考慮すれば、その区分所有権の共有持分の割合に応じて慰謝料もまた分配されると考えるのが、他の原告との関係から見ても公平と考えられる。また、原告加藤、同辻本及び同鈴木正については、当初の期待が駐車場の使用不可能によって現実に侵害され、今後も当初の期待通りに回復する見込みがないこと、駐車場が使用できなくなったことは、直接には被告の説明義務違反とは関係ないにしても、被告の右違反行為がなければ、その期待を裏切られることはなかったこと、一方、その余の原告らについては現在もなお駐車場を利用しており、被告会社の担当者の説明義務違反があったにせよ、事実上は右原告らの希望どおり駐車場を利用できていることを考えれば、駐車場を利用できなくなった他の原告らに比べて精神的損害の程度は小さいと認められる。)。

4 過失相殺

原告らは、前記認定のとおり、被告作成のパンフレット及び重要事項説明書にはそれぞれ「標記登記簿面積は、開発区域全域の面積より借地である駐車場面積を除いたものとなります。」「駐車場/敷地外に二〇台分確保」の各表示の記載がみられるが、原告らはいずれも本件マンションを生活のために購入した一般人であるのに対して、被告はその販売を業とする専門業者であること、前記認定のような被告販売担当者の原告らに対する説明の態様等を考慮すれば、原告らが被告担当者の説明から本件駐車場の利用について前記認定のように信じることはやむを得ないことであり、右信頼については原告らに特に過失があるとまでは認めることはできず、被告の主張は採用できない。

5 弁護士費用については、弁論の全趣旨によれば、原告らは、原告ら訴訟代理人に対し、本件訴訟の提起と追行を委任し、相当額の報酬の支払を約束したものと認められるところ、本件事案の内容、審理の経緯、認容額等その他一切の事情を勘案すると、被告が賠償すべき弁護士費用の額は原告加藤、同辻本及び同鈴木正についてはそれぞれ金五万円、原告齊藤義之については金四万円、同齊藤妙子については金一万円、原告鈴木和雄、同大胡、同永嶋については金二万円、原告小林操については金一万五〇〇〇円、同草間については金五〇〇〇円をもって相当と認める。

五  争点2(二)(不法行為責任)及び争点4(消滅時効)について

前記認定のとおり、被告には、契約締結上の過失の理論により、原告らの慰謝料についてのみ損害賠償の責任が生じており、原告らの本件請求のうちその余の部分については、なお予備的請求原因である不法行為責任の成否を検討する余地があるが、前記の認定と判断によれば、被告の責任は不法行為上の責任としても同様に認めることができ、右の不法行為責任による原告らの損害も、右認定と同額と認められる。したがって、不法行為責任を主張する予備的請求原因の内、右認定の各損害の額を越える部分は理由がない。そうすると、被告の過失相殺と消滅時効の各抗弁については、これらを判断するまでもないというべきである。

第四  結語

以上のとおりであるから、原告らの主位的請求のうち、広義の契約責任に基づき原告加藤、同辻本及び同鈴木正に対しそれぞれ金五五万円、原告齊藤義之に対し金四一万五〇〇〇円、原告齊藤妙子に対し金一三万五〇〇〇円、原告鈴木和雄、同大胡及び同永嶋に対しそれぞれ金二二万円、原告小林操に対し金一六万四〇〇〇円及び原告草間に対し金五万六〇〇〇円並びにこれらに対するそれぞれ訴状送達の日の翌日である平成六年一一月一六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから右限度で認容し、その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 慶田康男 裁判官 千川原則雄 裁判官 篠原康治)

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